父帰る

 父が老健施設から帰ってきた。先週のカンファレンスで病院側から、

「普段はU字歩行器を使っており、一人で歩くには介護が必要だ」と聞かされており、心配したが杞憂だった。前回帰ってきた時は顔からも動く姿からも相当弱ってきたなと痛感したが、今回は予想外に顔は少し痩せたが会話もしっかりしているし、姿勢が良い

。前屈みになることもなく、ㇵの字で歩く姿も以前にも増して軽快だ。これだと杖だけで歩きそうだ。前回は相当弱っていたが慣れた家で、息子と気兼ねなくしゃべり、食べるものも病院食でなく酸いも甘いも言うがままに好きなだけ食べさせた結果、気力、体力ともに見るからに回復した。

 家に入るなり開口一番、「やっぱり家は落ち着く」と言いながらゆっくりと歩き回る姿に任せている。「仏さんに参ったか。」「ああ、さっき参った。」

 姉からの進言で近所のスーパーマーケットへ連れて行ったが、自分から買い物カートを押して「鰹節の堅いのを探す」と言う。結局店には置いてないとわかっても、特招セールで混雑するお昼前のスーパーの中を進んでいく。前回と違う、体の機能は回復しているのか。しかしそこは96歳、30分ほどして帰る頃には、「ちょっと休憩」と言ってベンチに腰掛ける。しばらくすると「さあ帰ろう」と自分から立ち上がる。頼もしい限りだ。

 ところが一方で、やはり痴呆は進んでいるみたいだ。「台風の時に道が通れずに泊めてもらった坂下の山本さんのところに礼に行くから連れていけ。何ぞ手土産に。」と、これが鰹節のことなのかと思いつつ、やんわりと、昔のことを急に思い出し2、3日前のことと思い込んでいると諭した。思い込みが激しい、こんなことは前回はなかった。

 ところで食欲は変わらない。奮発したスーパーの握り寿司1パックをペロリと平らげた。たくさん食べて、たくさん歩き、42度の風呂に入り、9時半頃に寝付いた。深夜、親父を見に行った。ベットで優しい寝息を立てている。一安心。